無害化処理技術
アスベスト無害化処理とは?
アスベストを無害化するとは、非石綿化、非繊維化することをいいます。非石綿化は、クリソタイル(白石綿)を、加熱脱水することでフォルステライトという物質に変わり、非石綿化できたともいえますが、これではまだ不十分です。非繊維化はアスベストを粉砕すれば可能と思われますが、ミクロンオーダーさらにはナノレベルで見ると、繊維形態は変化しても中身は変化していません。アスベストの主成分はケイ酸マグネシウムであるため、ケイ素とマグネシウムの結合を切断すれば、非繊維化されかつ非石綿化されることが解明されています。この結合を切断し、さらに繊維状形態を無くし非繊維化・非石綿化することにより、アスベストは、現在問題となっている人体に取り込んだ場合に、繊維質が刺さり発生する中皮腫や肺ガンの原因物質とならなくなります。
(※無害化の言葉の概念は各基準により異なります。例えば食品衛生上の安全基準とは別のものです。)
注意
吹付けアスベスト使用現場での固定化、封じ込め対策において無害化と表示されている場合がありますが、これは飛散防止の観点から害が無いということで、廃棄物処理法上での無害化とは異なります。
廃棄物処理法上での無害化処理とは、廃棄物を人の健康または生活環境に係わる被害が生ずるおそれのない性状にする処理を言います。この性状の確認として検出されないこととされていますが、現在の判定方法では非石綿化(非含有)の判定までとなります。
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無害化処理の状況
アスベストの無害化処理(非繊維化)として、現在認められているのは溶融による処理方法です。クリソタイル(白石綿)の溶解点が1521℃ですので、それ以上の高温で溶融(溶ける)されます。(アスベストの物性参照)
廃棄物処理施設としての溶融炉は1500℃程度の超高温によるものであり、多くは都市ゴミ処理施設の焼却炉から発生する焼却灰処理や特殊廃棄物の処理に用いられています。1500℃以上の溶融設備で廃石綿処理の認可を持つ民間廃棄物処理施設も国内に数カ所ありますが、実際にアスベスト廃棄物の受入を
している処理施設は多くはありません。理論上は、熱エネルギーのみで分解可能とされていますが、セメントなどで覆われたアスベスト含有廃棄物の処理としては確認されていません。
無害化研究の状況
アスベストの処理、とりわけ無害化への研究は、アスベストの有用性、その丈夫で変化しづらい特性、発病までの長い潜伏期間のため、有効な方法が見つけられてこなかったのが現状です。そのためアスベストの有害性を認識しながらも研究者の多くがこの問題に取り組んできませんでした。この状況の中、アスベスト無害化処理技術として有力視されるのが、塩類などの添加剤を利用した低温でのアスベスト無害化処理です。現在、様々な方法でアスベスト無害化の研究開発が進められていますが、溶融による超高温での処理以外では、特許技術として成立した実現可能な有用な技術です。今後は、アスベストの危険性の再認識により、さらに研究は進むと思われます。
低温での無害化研究の概要
■研究の始まり
アスベストの分解には、ケイ素との親和性の高いカルシウム化合物を添加すれば可能と考えられ、フッ化カルシウムを含むフロン分解物は都合の良い物質でした。フロンは、塩素およびフッ素を含み炭素数が1あるいは2の有機化合物で、冷媒や半導体製造などの分野で使用されましたが、オゾン層の破壊や地球温暖化物質であることが分かり使用禁止となり、回収後は分解処理されています。分解されたフロンは、消石灰で中和されフッ化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウムとなります。このフロン分解物をアスベストと混合して加熱すると700℃で分解することが判明しました。この成果は、毒をもって毒を制する処理方法として注目を浴びました。
■今後の展望
フロン分解物の利用から始まったアスベストの無害化処理は、アスベストの危険性が改めて問われると、実際のアスベスト廃棄物の無害化処理への活用が求められました。しかし、今後大量に排出されるアスベスト発生量と、使用禁止されたフロン発生量のバランスはとれず、アスベスト発生量に見合った添加物でならないため、反応の要である塩類での無害化処理に成功しました。アスベスト含有廃棄物の基準がその重量の0.1%を超えるものとなり、大量の排出が見込まれるため、早期の無害化処理システムの構築が求められます。現在、各政府機関による無害化検証・実証プロジェクトが進行しています。低温での無害化処理技術も実証実験が推進されていますので、近い将来、実機での無害化処理事業が可能となります。
高度技術によるアスベスト無害化処理
廃棄物処理法改正により、溶融以外の高度技術によるアスベスト無害化処理技術を環境省が認定する、特例制度が創設されました。現在様々な方法により無害化への研究開発が行われていますが、特許成立技術として低温でのアスベスト無害化処理があります。アスベストを熱エネルギーのみで分解するには、1500℃以上の超高温が必要ですが、より低い温度で分解するため、化学反応を活用すれば結合は切断されることが解りました。ケイ素と親和性の高い物質、すなわちカルシウム化合物を添加すれば可能となります。アスベストとカルシウム化合物を主体とした促進剤を混合(又は混練)し、低温加熱処理するとアスベストは分解、無害化されます。この方法により、アスベスト含有物質(スレート、屋根瓦、石綿管、耐火被覆材等)の無害化も可能となります。以下に、特許成立している低温でのアスベスト無害化処理技術を紹介します。
●低温分解によるアスベストの非石綿化および非繊維化
■フロン分解物を用いたアスベストの分解処理方法
フロンは、ClとFを含む炭化水素化合物で、冷蔵庫やエアコンなどの冷媒として使用されていますが、オゾン層破壊物質であることが判明したことから使用禁止となり、回収されるようになりました。回収されたフロンは高温炉やプラズマ分解装置で分解され、フッ化水素および二酸化炭素を生成します。これらは消石灰と中和して、塩化カルシウム、フッ化カルシウムおよび炭酸カルシウムとなり無害化されます。このフロン分解物とアスベストを混合させて加熱すると、700℃でアスベストの結晶構造と繊維構造が崩壊します。クリソタイルの加熱脱水で生成したフォルステライトは、炭酸カルシウムの熱分解で生じた酸化カルシウムとフッ化カルシウムとの三成分間での反応によりカスピディンを生成します。一方、アスベスト中のマグネシウムは、分解し700℃以上の焼成物中に酸化マグネシウムとして存在が確認されています。これらのことからアスベストは熱分解でフォルステライトを生じますが、さらに酸化カルシウムとフッ化カルシウムと反応してMg-O-Si結合が切断され、酸化マグネシウムとカスピディンを生成します。これによりクリソタイルの結晶構造が崩壊しアスベストの非繊維化、非石綿化が達成されます。
●フロン分解物での無害化処理の課題
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フロンは使用禁止となっている物質であり、その発生量もカーエアコンや廃家電からの回収を合わせても年間3千トンにもならず年間100万トン以上と言われるアスベスト廃棄物の処理には量的に適していません。
また、この手法ではセメントーアスベスト複合材に対しては被覆したセメントがクリソタイル表面を保護しているため、アスベストの分解にはいたりませんでした。
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塩類を用いたアスベスト含有複合材の無害化処理方法
アスベストは、その9割以上が建築材料として使われていますが、アスベスト単体で使用されることはなく、多くは親和性の高い酸化カルシウム成分を含有するセメントとの複合材として使用されています。飛散の危険性の高い吹きつけアスベストにおいても、吹き付け材中に含まれるアスベスト量は、通常の50〜95%でありアスベストはセメントで覆われ保護された状態にあります。前段の研究であるフロン分解物での処理においては、クリソタイルを700℃程度で分解可能であることを確認しましたが、この手法ではセメントにて保護されたセメント―アスベスト複合材中のアスベスト分解にはいたりませんでした。そこで反応の主成分である塩化カルシウム等の塩類を水溶液として添加、加熱することによるアスベストの低温分解非繊維化を確認しました。
反応に用いた塩類は、塩化カルシウムCaCl2に加えて、炭酸カルシウムCaCO3および塩化ナトリウムNaClであり、低温で溶融塩を形成する補助添加化合物としてフッ化物NaFを加えました。複合材のアスベストとセメントの混合比やその性状により、それら塩類および補助添加物の混合比を変えた水溶液により、繊維状のアスベストに塩を添加し、800℃で2時間過熱することによりアスベスト含有複合材のクリソタイルが分解しました。この方法は、2005年8月に特許出願し11月には成立、2006年2月に特許公開されるという超スピードにて審査されました。本特許は、包括的技術特許であり塩化カルシウムなどの塩類を用いたアスベスト無害化処理方法全てに反映されます。今後はこの量的にも充分であり、かつ低コストの塩類による促進剤を利用した無害化処理の研究を推進します。
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■特許情報■
【発明の名称】 アスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法
【発明者】 小島昭、藤重昌生
【特許出願人】 独立行政法人国立高等専門学校機構
【特許番号】 第3747246号 |
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非飛散性アスベストの無害化技術
アスベストは単体で存在するほか、セメントなどと混合されアスベスト含有建材として多く存在します。今後、建築物の建替えや改築による解体が行われることによりアスベスト含有建材が廃材として発生するため、その安全かつ確実な処理が大きな問題となります。とりわけ、スレート製品等の非飛散性アスベストは、破砕によって飛散し、二次汚染・二次的な健康被害を発生するおそれがあります。量的にも4千万トンと多く、今後約30年にわたって、毎年百数十万トンを確実に処理しなければなりません。そのため、スレート製品等の非飛散性アスベストを中心とした大量のアスベスト廃棄物を確実に無害化処理できる、安全かつ効率的な処理技術が求められてきました。
■アスベストを含むスレート廃材の処理方法
スレート廃材中のアスベストの分解は通常1500℃程度の高温を必要としますが、耐熱性に優れたスレート廃材中のアスベストを1000℃未満の低温で融解、ガラス化する技術は知られていません。アスベストを含むスレート廃材を粉砕せずにホウ砂、ホウ酸と炭酸ナトリウムの混合物、又はホウ砂と炭酸ナトリウムの混合物からなる融解剤の水溶液に漬け、それを減圧下又は加圧下に置いて融解剤をスレート廃材の表面からスレート内部の空隙内に含浸することによって前処理した後、そのスレート廃材を融解剤を満たした溶融炉内に浸漬して780℃〜1000℃の範囲に加熱することによってスレート廃材中のアスベストを溶融させてガラス化させます。この方法によれば、スレートを切断や破砕することなく定尺のままで無害化処理することができます。
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■特許情報
【発明の名称】 アスベストを含むスレート廃材の処理方法
【発明者】 小島昭
【特許出願人】 独立行政法人科学技術振興機構
【特許番号】 第3830492号 |
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※特記無き場合、無害化処理技術の情報は群馬高専小島研究室からの提供によります。
無断複写掲載は禁止します。
マイクロ波を用いたアスベストの溶融処理
■マイクロ波加熱の利点
アスベスト建材廃棄物中に含まれる酸化カルシウムCaO炭化ケイ素SiCは、電磁波を吸収して発熱する性質を持つため、断熱素材やアスベスト成形板等の内部まで急速に加熱することが可能となります。
現在、選択された領域の加熱や超急速の加熱が可能となるマイクロ波による無害化技術について研究開発を進めています。
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マイクロ波とは? |
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電波の周波数による分類の一つ。
一般的には波長100マイクロメートル - 1メートル、周波数300メガヘルツ - 3テラヘルツの電波(電磁波)を指します。 |
■マイクロ波加熱無害化試験
マイクロ波加熱により急速アスベスト分解とガラス化
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クリソタイル + 酸化カルシウムCaO + 塩化カルシウムCaCl2 + 水 → 電子レンジ加熱
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クリソタイルアスベスト MgSi2O5(OH)4
分解剤:酸化カルシウム CaO
融 剤:塩化カルシウム CaCl2
水を加え混合、電子レンジにて加熱] |
混合比、加熱出力、加熱時間の検討 |
3分加熱
チン!! |
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※X線回折分析(XRD)、電子顕微鏡観察SEMの結果、クリソタイル・フォルステライトは見られません。
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アスベストに分解剤・融剤を混合しマイクロ波加熱することにより急速(約3分)にアスベストを無害化 |
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マイクロ波加熱とは? |
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マイクロ波という電磁波を物体に当てると、電子のはたらきでその物質が発熱します。 |
レーザーを用いたアスベストの溶融処理
■レーザーによるアスベスト無害化の可能性
・レーザー光をアスベストまたはアスベストを含有する建材に照射して、瞬時にアスベストを分解、溶融させ無害化処理します。
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レーザーアスベスト無害化処理装置 |
・アスベストまたはアスベストを含有する建材(吹き付けアスベスト)を敷設した建築物の解体・除去に際し、レーザー光をアスベスト含有物に照射して、現場にてアスベストを熱分解、溶融または蒸発させます。
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レーザーアスベスト除去処理装置 |
・アスベストを含有する建材(成形板)を切断する際に、レーザー光を照射して、切断面におけるアスベストを溶融・凝固させて、切断面からの大気中への飛散を防止します。
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レーザーアスベスト建材切断装置 |
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レーザー(Laser)とは? |
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光(電磁波)を増幅し、コヒーレントな光を発生させる装置、または、その光(レーザー光)を指します。レーザー光は指向性や収束性に優れており、また発生する電磁波の波長を一定に保つことができます。
レーザーの名は、Light Amplification byStimulated Emission of Radiation(輻射の誘導放出による光増幅)の頭字語から名付けられました。 |
■レーザ照射装置の開発
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開発の要点 |
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レーザ種類 CO2、半導体、YAG |
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発振形式 パルス、連続波 |
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レーザ出力 4kW、2kW |
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焦点外し距離 |
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照射時間、スキャン速度 |
レーザ照射処理の利点 |
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破砕・粉砕等の前処理設備が不用 |
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大規模な排ガス処理設備が不用 |
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高速処理による大量処理が可能 |
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省スペース、省エネルギー |
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多様な処理物、処理量に対応可能 |
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吹付材、成形板、シール材等 |
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トレモライトなどマイナー三種に対応 |
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現場でのオンサイト処理が可能 |
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地球温暖化を防ぐための低炭素社会実現には廃棄物処理において溶融や焼却によるCO2の排出はできる限り抑制する必要があります。 |
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照射面の観察 レーザ 1秒照射 |
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レーザ照射 |
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